鮭
鮭は日本の食卓によく上るポピュラーな魚です。塩焼き、ソテー又はムニエルにした鮭の切り身は、白米にとても良く合うおかずで、食欲をそそります。スーパーなどで見かける鮭の切り身はオレンジ色に近い赤身をしています。そのため、マグロやカツオなどと同じ赤身魚に思えますが、鮭は白身魚です。身が赤く見えるのは、鮭が主に甲殻類のプランクトンであるオキアミ類などを食べているからです。
すなわち、鮭は、これらを捕食することによって、甲殻類に含まれるカロテノイド(天然の黄や赤の色素)の一種であるアスタキサンチン(天然の赤い色素)を体内(筋肉)に取り込んでいます。鮭は、産卵のために急流の川を遡るとき、筋肉に大きな負担がかかるため、大量の活性酸素を発生します。ちなみに、活性酸素は、体内で細菌やウイルスなどを攻撃する役割がありますが、増えすぎると、正常な細胞などを攻撃するため老化や病気の原因にもなります。
一方、アスタキサンチンは、抗酸化作用があるため、大量に発生する活性酸素を除去する働きがあります。すなわち、鮭が産卵場所に到達するための体力と筋力を維持するうえで必要な栄養素です。産卵場所では、オスはアスタキサンチンを婚姻色になるために使用します。メスは卵を保護するために使用します。婚姻色とは、繁殖期になると、体の表面に現れる鮮やかな色や模様のことです。そして、日本では主に白鮭、銀鮭、紅鮭の3種類が販売されています。白鮭はほとんどが天然物として日本国内で水揚げされています。


魚は、ミオグロビンなどの色素タンパク質が含まれている量によって、赤身魚と白身魚に分類されるよ!100グラムあたり10ミリグラム以上のミオグロビンが身に含まれていると、赤身魚に分類されるんだ!つまり、鮭の身を赤くしているのは、この色素タンパク質ではないため、白身魚に分類されるんだよ!


そのため、日本では、一般的に鮭とは白鮭のことです。白鮭は、獲れる時期によって秋鮭又は時鮭(ときさけ、ときしらず)とも呼ばれます。すなわち、北海道などでは、白鮭が9~11月頃に産卵のために川に戻ってきます。この頃に水揚げされた白鮭を秋鮭と呼びます。また、5~7月頃に水揚げされた若い鮭を時鮭と呼びます。銀鮭には、日本の養殖物もありますが、多くがチリの養殖物を輸入しています。紅鮭は主にロシアやカナダで獲れた天然物を輸入しています。
サーモン
鮭は英語でサーモン(salmon)と言います。つまり、鮭とサーモンは同じ意味です。そして、サーモンと鮭は同じサケ科に属する魚です。しかし、スーパーなどでは、サーモンは、鮮やかなオレンジ色で、生で食べられる刺身や寿司ネタとして売られています。すなわち、サーモンは、多くが淡水魚で、養殖されたものは生で食べられます。一方、鮭は、天然の海水魚で、アニサキスなどの寄生虫がいる可能性があるため、加熱用食品として売られています。

日本では、主にトラウトサーモン(サーモントラウト)、アトランティックサーモン、キングサーモンの3種類が販売されています。トラウトサーモンは、淡水魚であるニジマスが海水で養殖されたものです。トラウト(trout)は鱒(マス)、サーモン(salmon)は鮭を意味しますが、トラウトサーモンは正式名称ではなく商品名です。また、トラウトサーモンは、多くがチリやノルウェーなどから養殖物として輸入されています。アトランティックサーモンは主に北大西洋に生息しています。

スーパーなどに並ぶ刺身や寿司ネタのサーモンは、主にノルウェーやチリで養殖されたアトランティックサーモンです。年間を通じて価格や出荷量が安定しているため、よく食べられているサーモンです。キングサーモンは、大型のサーモンで、主にニュージーランドやカナダで養殖されたものが輸入されています。一般的にキングサーモンと呼ばれていますが、和名はマスノスケです。国産のキングサーモンは水揚げが少ないため、希少品として高値で取り引きされています。
鮭とサーモンの栄養素
鮭には、タンパク質、脂質、ビタミンなどの栄養素が豊富に含まれています。タンパク質は20種類のアミノ酸によって構成されています。そのうち、11種類(非必須アミノ酸)については体内で他のアミノ酸から合成することができます。しかし、9種類(必須アミノ酸)については体内で合成することができません。そのため、これらのアミノ酸を食べ物から摂取する必要があります。鮭にはこの必須アミノ酸が豊富に含まれています。
しかも、鮭の身はやわらかく消化吸収が良いため、その栄養素は効果的に吸収されます。また、鮭には、脂質のうち不飽和脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれています。体内ではEPAとDHAを合成することがほとんどできません。したがって、必須脂肪酸として食べ物から摂取する必要があります。そして、鮭には様々なビタミン類が含まれています。主なビタミン類としてはビタミンB群とビタミンDがあります。

ビタミンB群は水に溶ける水溶性ビタミンです。ビタミンDは水に溶けない脂溶性ビタミンです。さらに、鮭にはアスタキサンチンが豊富に含まれているという特徴があります。アスタキサンチンとは、エビやカニの殻や鮭の身や卵に含まれる赤い色素で、トマトや人参などに含まれるリコペンやβ-カロテンと同じカロテノイド(天然色素)の一種です。なお、鮭の皮には、これらの栄養素がより多く含まれています。次に鮭を代表する栄養素として、脂肪酸(EPAとDHA)、ビタミン類、アスタキサンチンの効能について解説します。
脂肪酸(EPAとDHA)の効能
EPAには、血液をさらさらにして、血液が固まるのを抑制する働きがあるため、脳血栓や心筋梗塞を防いだり、血中の中性脂肪やLDL(悪玉)コレストロールを減らしたりする効果があります。そして、脂質異常症や動脈硬化によって引き起こされる様々な症状を改善したり、それらを原因とする疾患を防いだり、血圧の上昇を抑えて高血圧を予防したりする効果も期待できます。
DHAは脳や網膜などの神経組織に多く含まれています。すなわち、DHAは脳に必要な栄養素です。そして、脳の神経細胞を活性化したり、神経の円滑な情報伝達を促進したりする働きを持っています。特に、子供の脳神経の発達を助けて、記憶力、集中力、学習能力を高める効果があるとされています。また、DHAは、脳の神経細胞を保護して認知症のリスクを減らしたり、脳内の神経伝達物質のバランスを整えてストレスや不安を軽減したりすることが期待されています。
ビタミン類の効能
鮭には、ビタミンB群(ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの8種類)が概ね含まれていますが、特に、B6、B12、ナイアシンが多く含まれています。ビタミンB6はタンパク質の代謝に不可欠な栄養素です。タンパク質は、体内でアミノ酸に分解されてから、必要なたんぱく質に合成されて皮膚、筋肉、内臓などの体の組織をつくり出します。すなわち、ビタミンB6は、タンパク質のこの分解と合成に関与する酵素の働きを助ける補酵素としての役割を果たしています。
また、タンパク質は免疫細胞の主な構成成分です。そのため、ビタミンB6は免疫細胞をつくり出すうえでも欠かせません。すなわち、ビタミンB6は免疫機能が正常に働くために必要な栄養素です。さらに、ビタミンB6は、赤血球のヘモグロビンを合成したり、脳内で情報伝達を行う神経伝達物質を合成したりするときも、それらの合成を助ける栄養素です。そのほか、人の体が、エネルギー源としてタンパク質を利用するときも、ビタミンB6は、タンパク質のエネルギー代謝に関与する酵素の働きを助ける補酵素としての役割を果たしています。
このように、ビタミンB6はタンパク質の代謝に関与するため、スポーツなどを行ってタンパク質を多く摂取している人は、ビタミンB6も多く摂取する必要があります。ビタミンB12は、補酵素としてアミノ酸や脂肪酸の代謝を促進したり、タンパク質や核酸の合成を助けたりする働きがあります。さらに、神経細胞を正常に機能させたり、末梢神経を修復したりする働きにも関与しています。

また、ビタミンB12と葉酸は赤血球をつくり出すうえで重要な役割を果たしています。すなわち、どちらか一方が不足すると、赤芽球(せきがきゅう)が巨大化して赤血球になることができません。赤芽球とは赤血球になる前の段階の血液細胞のことです。これによって赤血球が減少すると、貧血を起こすことになります。ナイアシンは、糖質、脂質、タンパク質のエネルギー代謝に関与する酵素の働きを助ける補酵素としての役割を果たしています。
また、ナイアシンはアルコールを分解する酵素の働きを助ける補酵素としての役割も果たしています。そのほか、ナイアシンは、毛細血管を拡張したり、皮膚や粘膜の健康を維持したり、脳神経を活性化したり、核酸を修復又は合成したり、脂肪酸やステロイドホルモンを合成したりすることに関与する酵素を助ける補酵素としての役割も果たしています。ビタミンDには、体内でカルシウムやリンを吸収する働きを助けたり、血中のカルシウム濃度を調節したりする働きがあります。
そのため、ビタミンDには、血中のカルシウム濃度が低下すると、骨からカルシウムを溶かして血液に運び、血中のカルシウム濃度を高める働きがあります。カルシウムは、血液とともに体全体に運ばれて、ほとんどが骨や歯の形成に使われています。残りのカルシウムは、心臓などの筋肉を収縮させたり、神経の興奮を抑制したり、血液を凝固し易くして出血を抑えたりする働きに関与しています。
そのほか、ビタミンDには、免疫機能を向上させたり、殺菌作用がある抗菌ペプチドを合成したり、セロトニンの分泌を促進して精神のバランスを整えたりする働きがあります。セロトニンとは神経伝達物質の一種で精神を安定させる役割を持つ脳内物質です。ただし、ビタミンDは、脂溶性ビタミンのため、摂りすぎると高カルシウム血症を起こします。すなわち、血管壁、腎臓などにカルシウムが沈着します。そのため、腎機能障害などを引き起こすことにもなります。
アスタキサンチンの効能
アスタキサンチンは、抗酸化力がとても強く、ビタミンCの約6,000倍、β-カロテンの約40倍、ビタミンEの約550倍もの抗酸化力があると言われています。抗酸化とは、活性酸素によって引き起こされる細胞の酸化(ダメージ)を抑える働きのことです。活性酸素には体内に侵入した細菌やウイルスを排除する役割があります。活性酸素は、体内でつくり出されますが、増えすぎると正常な細胞まで攻撃してしまいます。

すなわち、活性酸素が増えすぎると、がんなどの生活習慣病になったり、老化や認知症が進んだりするなどの問題を引き起こします。たとえば、活性酸素による細胞の酸化は、脳出血などの脳疾患を引き起こす原因にもなります。アスタキサンチンは、活性酸素を減らしてこれらの脳疾患を予防する効果が期待できます。また、LDLコレストロールは、活性酸素によって酸化されると、血管壁に蓄積して血管を硬く細くして老化させます。そのため、動脈硬化を引き起こす恐れがあります。
アスタキサンチンは、LDLコレストロールの酸化を抑制して動脈硬化のリスクを減らします。これによって、脳梗塞や心筋梗塞を予防することができます。そして、アスタキサンチンには、強い抗酸化作用によって目の新陳代謝を上げたり、血流を促進したりする働きがあります。それにより眼精疲労が改善される効果もあります。さらに、アスタキサンチンは、酸化による細胞の老化を防ぐため、シワやたるみを改善して弾力性のある肌を保つ効果が期待できます。そして、メラニン色素の生成が抑えられるため、シミやそばかすが発生するのを防ぐ効果も期待できます。






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