GDP
GDPは、Gross Domestic Product(国内総生産)の略称です。GDPとは、国内で一定期間(通常1年間)内に生産されたモノやサービスの付加価値を合計した数値(金額)のことです。
付加価値とは、事業者が生産活動によってモノやサービスに新たに付け加えた価値を意味します。すなわち、付加価値とは、事業者がモノやサービスを販売したときの価格から、原材料費などを差し引いた額のことです。
付加価値は、売上高から必要経費を差し引いた儲けと言うこともできます。すなわち、事業者が、従業員や設備を使って、原材料を購入したり、水道光熱費や輸送費などを支払ったりして、モノやサービスを生産・販売します。
その売上金額の総額(売上高)から、原材料、水道光熱費、輸送費などの経費を差し引いた利益/儲け(付加価値)について、一国の全ての事業者が1年間に国内で生み出したものを合計した金額がGDPになります。
そして、GDPは最終財の売上高と同じ額になります。最終財とは、事業者が生産して、消費者に販売するモノやサービスのことで、生産過程に投入されない最終段階の商品です。
以上の解説をわかりやすくするために、次に簡単なたとえ話をしましょう。パン屋さんが、小麦粉を30円で、あんこを50円で仕入れて、アンパンを焼いて(生産して)100円で売った場合、パン屋さんの儲け(付加価値)は20円になります。
そして、小麦粉を売った業者は、農家から小麦を20円で仕入れて、小麦粉を作って(生産して)パン屋さんに30円で売ったので、儲け(付加価値)は10円になります。小麦を20円で売った小麦農家の儲け(付加価値)はそのまま20円とします。
また、あんこを売った業者は、農家から小豆を30円で仕入れて、あんこを作って(生産して)パン屋さんに50円で売ったので、儲け(付加価値)は20円になります。小豆を30円で売った小豆農家の儲け(付加価値)はそのまま30円とします。
GDPは付加価値の合計額ですから、20円(パン屋さん)+10円(小麦粉の業者)+20円(小麦農家)+20円(あんこの業者)+30円(小豆農家)=100円、つまりGDPは100円になります。そして、アンパン(最終財)の売上高も100円です。
このようにして、国内の全ての事業者が、通常1年間に生み出した付加価値を合計したものをGDPと呼びます。GDPは、国の豊かさや経済状況を評価する指標として世界で広く利用されています。また、GDPの伸び率は、国の経済成長を示す指標にもなります。
ただし、GDPには、国内の事業者が海外で生産したモノやサービスの付加価値は含まれません。すなわち、GDPは、国内で1年間に生産されたモノやサービスの付加価値です。GDPに海外での付加価値を加えた場合は、GNI(Gross National Income:国民総所得)と言います。
GNIは、国民が国の内外で1年間に得た所得の合計額のことです。企業の海外進出に伴って、国内だけでなく海外を含めた一国の経済状況を示す指標として利用されています。
GDPの三面等価の原則
GDPには、マクロ経済学上の原則として三面等価の原則という考え方があります。これは、生産、分配、支出のいずれの側面から見ても額が等しくなることを意味します。
そして、三面等価の原則は次の式で表すことができます。GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)=GDE(国内総支出)
GDI(国内総所得)はGross Domestic Incomeの略称です。GDIとは、GDPを分配面から見たもので、国内で1年間に支払われた賃金、配当、税金や蓄えられた内部保留などを合計した金額です。
すなわち、事業者が国内で生み出した付加価値は、従業員への賃金、株主への配当、政府への税金や企業が蓄える利益などとして分配されます。これらを合計した金額はGDPと等しくなります。これをGDIと呼びます。
次に、GDE(国内総支出)はGross Domestic Expenditureの略称です。GDEとは、GDPを支出面から見たもので、国内で1年間に家計、企業、政府、輸出入によってモノやサービスのために支出した額と在庫品増加額を合計した金額です。
すなわち、家計による支出額とは、民間最終消費として食費や教育費などのために支出された額のことです。企業による支出額とは、民間投資として工場の建設や機械設備の設置などのために支出された額のことです。
政府による支出額とは、公共投資として道路の建設や護岸の整備などのために支出された額のことです。そして、輸出入による支出額は差し引きされます。すなわち、輸出したものは海外で購入(支出)されますが、国内で生産されたものですから、GDEの対象になります。
一方、輸入したものは国内で購入(支出)されますが、海外で生産されたものですから、GDEの対象外になります。そのため、差し引きした額が純輸出としてGDEに含まれます。これらを合計した金額はGDPと等しくなります。これをGDEと呼びます。
このように、三面等価の原則によって、GDPを増やすには、生産を増やすという見方だけではなく、賃金などの所得や家計などの支出を増やすという見方もできるようになります。
また、国民所得の三面等価の原則という言い方もします。その場合、生産国民所得=分配国民所得=支出国民所得という式で表します。GDPの三面等価の原則と考え方は同じです。
名目GDPと実質GDP
名目GDPとは市場価格(実際に取引された価格)に基づく数値です。すなわち、名目GDPは物価の変動を反映した数値になります。一方、実質GDPとは、名目GDPから物価の変動によって影響を受けた分を差し引いた数値です。
たとえば、100円の商品を100個売ると、合計額は1万円です。次の年に物価が上昇したため、同じ商品を110円で100個売ると、1万1千円です。この場合、100円で売ったときは、名目GDPと実質GDPは1万円です。
しかし、次の年の名目GDPは、物価の上昇を反映した数値になるので、1万1千円です。一方、実質GDPは、名目GDPから物価の変動によって影響を受けた分を差し引いた数値になるので、合計額は1万円です。
名目GDPから実質GDPを算出するときは、「GDPデフレーター」という指標を使います。これは、名目GDP÷実質GDP=GDPデフレーターという数式で表します。先の例を当てはめれば、1万1千円÷1万円=1.1になります。
したがって、実質GDPを算出するときは、名目GDP÷GDPデフレーター=実質GDPという数式になり、1万1千円÷1.1=1万円になります。このことから、GDPデフレーターが1より大きい数値ときは、物価が上昇していることを意味しています。
逆に、数値が1より小さいときは、物価が下落していることを意味します。このように、名目GDPの数値が増えた場合でも、その要因が物価の上昇であれば、取引量は増えていないので、経済が成長しているとは言い難いことになります。それを確認する場合には、実質GDPの数値が必要になってきます。
GDPの公表と日本の国際比較
内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」という資料の中で、GDPの前期比と前年度比の成長率や四半期と年次の実額が、実質GDPと名目GDPに分けて、四半期ごとに速報として公表されています。
そして、その成長率は経済成長率を示しており、その実額は日本の経済規模を示しています。さらに、生産、分配、支出、資本蓄積といったフロー面(一定期間)や資産や負債のといったストック面(ある時点)も含めた年次推計が年に1回公表されています。
これらの数値は、四半期別の1次速報と2次速報、年次推計の順番で公表されています。GDPは、国民勘定体系(SNA: System of National Accounts)という国際連合の基準で体系化された国民経済計算によって推計されています。
現在は、「2008年版国民勘定体系』(2008SNA)に基づいて推計されています。これは、2009年に国際連合で合意された最新の国際基準です。世界各国はこの基準に基づいて推計しているため、GDPの国際比較が可能になっています。
そして、国民経済計算年次推計の参考資料として、主要国などの名目GDPや一人当たりの名目GDPについて国際比較の数値を公表しています。また、国際通貨基金(IMF)が名目GDPの国別ランキングを公表しています。それによると、2024年では、1位が米国、2位が中国、3位がドイツ、4位が日本、5位がインドです。
米国は約29兆USドルで群を抜いています。2位の中国は約19兆USドルです。この2か国が上位の5か国の中でも抜きん出ています。3位から5位は約5兆から4兆USドルの間です。日本は、2023年にドイツに抜かれて、3位から4位に落ちました。上位5か国のうち日本のみが前年に対してマイナス成長になっています。
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