日米安保条約を2回に分けて解説します。前編は日米安保条約の必要性と経緯です。後編は日米安保条約の条文の解説です。
日米安保条約の前文
日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)は、1960年1月19日にワシントンで署名され、同年6月23日から効力が発生しました。日米安保条約の前文は次のとおりです。「日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、

国際連合憲章(国連憲章)の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国連憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、安保条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。」
第1条
第1条には、両国が、国連憲章に従い平和的手段によって国際紛争を解決すること、国際連合の目的と両立しない方法によって武力で威嚇したり、武力を行使したりすることを慎むこと、国際連合の強化に努力することが規定されています。つまり、両国は、国連憲章に基づき自衛権を行使することを確認しています。第1条の規定は次のとおりです。「締約国は、国連憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によって

国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。」
第2条
第2条には、両国が、自由主義に基づく平和的で友好的な国際関係の発展に貢献すること、経済協力を促進することが規定されています。第2条の規定は次のとおりです。「締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによって、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。」
第3条

第3条には、両国が、憲法の範囲内で自らかつお互いに協力して防衛力の整備を行うことが規定されています。第3条の規定は次のとおりです。「締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」
第4条
第4条には、両国が、日米安保条約の実施、日本の安全又は極東の平和や安全に対する脅威について、いつでも外交ルートを通じて協議することが規定されています。日本の安全に対する脅威だけでなく、極東の平和や安全に対する脅威についても、協議の対象としているのは、日本が極東地域に位置しているため、その地域の平和や安全が日本の安全と密接に関係しているからです。第4条の規定は次のとおりです。「締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する」
第5条
第5条には、日本の領土、領海、領空において日米のどちらか一方に武力攻撃が行われた場合、両国は、自国に対する攻撃としてそれぞれの国内法に従って、防衛のための行動をとることが規定されています。つまり、両国が共同して日本を防衛する義務が規定されています。この規定は日米安保条約の根幹をなすものです。すなわち、この規定によって、日本に対する攻撃は強大な軍事力を保有する米国に対する攻撃と見なされるため、そこには強力な抑止力が働くことになります。

また、第1条において、両国が、国連憲章に従い平和的手段によって国際紛争を解決することなどが規定されていることを踏まえ、第5条の後段では、武力攻撃や防衛のための措置を国際連合安全保障理事会(国連安保理)に報告すること、そして、国連安保理が平和や安全を回復・維持するための措置を執ったときは、防衛のための措置を終わらせることが義務として規定されています。第5条の規定は次にとおりです。
「各締約国は、日本国の施政の下にある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国連憲章第51条の規定に従って直ちに国連安保理に報告しなければならない。その措置は、国連安保理が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。」
第6条
第6条には、米国は、米軍が、日本の防衛と極東における平和や安全の維持に力を尽くすため、日本において施設・区域を使用することが認められる旨規定されています。施設・区域とは、日本を防衛するとともに、日本の防衛と密接に関係する極東における平和や安全を維持するため、米軍がが使用するところです。すなわち、米軍は、日本に駐留するうえで拠点としたり訓練などの活動を行ったりする基地や演習場などを必要とします。そのため、日本は米国に対し基地や演習場などに使用する建物、土地、水域、空域を施設・区域として提供します。

同条後段には、日本の領土、領海、領空に設定される施設・区域の米軍による使用や日本における米軍の法的地位については別の協定などに定められることが規定されています。そのため、この別の協定として「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)」が1960年に日米安保条約の改定とともに締結されました。

日米地位協定には、米国に対し施設・区域を提供するときの手続き、提供される施設・区域の使用形態、日本に施設・区域を返還するときの条件、米国が施設・区域を使用するときの必要な措置などが定められているんだ!また、同協定には、日本に駐留している米軍に属する軍人、米軍に属する軍人以外の米国人(軍属)、それらの家族(米軍人等)の取扱いについても定められているよ!たとえば、米軍人等に対する日本の出入国や在留に関する法律の適用を除外すること、米軍人等が使用する輸入品などの課税を免除すること、米軍人等に対して米国が刑事裁判権を行使する場合などについて定められているんだ!そして、米軍人等が日本の法令を尊重することも規定されているよ!

地位協定は、日本の安全と極東の平和や安全に寄与するという目的の達成に向けて、米軍が日本において円滑に活動できるようにするため、両国によって締結されました。第6条の規定は次のとおりです。「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。」 なお、日米安保条約と同時に「条約第6条の実施に関する交換公文」が交わされています。交換公文とは、国際機関を含む国家間で交わす公式の書簡で、条約などを補完する合意文書のことです。この交換公文は、日本における施設・区域の使用に際して次の3つの重要な事項が発生する場合には、米国は日本に事前に協議することを約束したものです。1つ目は、米軍が日本への配置において重要な変更を行うときです。

この場合の重要な変更とは、陸上部隊の場合には1個師団程度のもの、空軍の場合にはこれに相当するもの、海軍の場合には1機動部隊程度のものを配置することです。2つ目は、米軍が日本において装備の重要な変更を行うときです。この場合の重要な変更とは、核弾頭や中・長距離ミサイルを持ち込むこと、そしてそれらの基地を建設することです。3つ目は、米軍が日本から戦闘作戦行動を起こすときです。ただし、条約第5条に基づいて行われる日本の防衛のための戦闘作戦行動を除きます。
第7条
第7条には、国連憲章が日米安保条約に優先されることが規定されています。第7条の規定は次のとおりです。「この条約は、国連憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。」
第8条
第8条には、両国による日米安保条約の批准手続きと効力発生日が規定されています。具体的には、1960年1月19日にワシントンで署名された日米安保条約は、1960年6月23日に批准書が交換されて効力が発生しました。第8条の規定は次のとおりです。「この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。」
第9条
第9条には、日米安保条約の効力が発生したときには、旧日米安保条約は効力を失うことが規定されています。つまり、旧条約は1960年6月23日に失効しました。第9条の規定は次のとおりです。「1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安保条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。」
第10条
第10条には、日米安保条約の有効期間と失効手続きが規定されています。すなわち、日本を取り巻く国際社会の平和や安全を維持するための措置が、国連によって十分に確立され、その効力が生じていることを両国が認めるときは、日米安保条約は失効することが規定されています。ただし、この条約の有効期間が10年を経過した後は、両国のどちらかが相手側に対して終了の通告を行えば、それから1年が経過すると失効することも規定されています。

第10条の規定は次のとおりです。「この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。もつとも、この条約が10年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後1年で終了する。」










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