サイボーグとは
サイボーグ(cyborg)はサイバネティク・オーガニズム(cybernetic organism)の略語です。サイバネティク・オーガニズムという言葉は、1960年にマンフレッド・クラインズとネイザン・ S・クライン(両者ともアメリカの医学者)によって提唱されたものです。そして、それはサイバネティクスとオーガニズムをつなげた造語です。そして、サイバネティク・オーガニズムとは、サイバネティクス(cybernetics)に関係する又はそれを使用する生命体(生物、有機体)という意味になります。

サイバネティクスについては後程解説します。サイバネティク・オーガニズムは、1950年代、米国とソ連(ソビエト連邦)が宇宙への進出を競っていたとき、宇宙へと踏み出す人間と機械の接合を考案したことが始まりです。つまり、人間と機械を接合して1つの生命体として機能するものをサイボーグと呼びます。言い換えると、サイボーグとは、身体の機能を補助する機器を埋め込んだり、身体の機能を機械で代替したりして改造された人間や動物のことです。
そして、サイボーグはSF(サイエンス・フィクション)の世界において描かれてきました。すなわち、サイボーグは、宇宙などの過酷な環境でも活動することができたり、脳機能や身体機能を強化して超人的な働きをすることができたりする改造人間として登場しました。日本では、石ノ森章太郎の漫画「サイボーグ009」が、1964年から週刊少年キングに連載されました。その後も、この漫画は多くの雑誌に連載されて人気を博しました。そのため、サイボーグという言葉がよく知られるようになりました。

サイボーグ009のあらすじは次のとおりだよ!孤児だった島村ジョーという青年が、黒い幽霊団(ブラック・ゴースト団)という巨大な悪の組織の手下に拉致されて、その秘密基地でサイボーグに改造されるんだ!ブラック・ゴースト団は、世界中で戦争を引き起こして、武器を売りさばく非合法の死の商人で、戦争用のサイボーグ兵士の試作品を作るため、世界中から拉致されても騒がれない人間を集めていたんだよ!すでに001から008にあたる人間がサイボーグに改造されていて、島村ジョーは、8人に施された改造技術の集大成として完成された最高のサイボーグになったんだ!

しかし、ブラック・ゴースト団で長年サイボーグの研究に携わり、島村ジョーたちの改造手術を担当したギルモワ博士は、良心の呵責に駆られて、9人のサイボーグを連れて基地を脱出するんだ!そして、ここから、ブラック・ゴースト団が繰り出す新手のサイボーグたちとの長い戦いが始まるんだよ!(私も、子供頃、このサイボーグ戦士に鉄腕アトム、鉄人28号、エイトマンというロボットヒーローとは違う新鮮味を感じて、サイボーグ009を夢中で読みました。)
サイバネティクスとは
サイバネティクスという考え方は、アメリカの数学者(マサチューセッツ工科大学の数学教授)であったノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener, 1894–1964)によって提唱されました。ウィーナーは、1948年(1962年には第2版)に「サイバネティクス:或いは動物と機械における制御と通信(Cybernetics: Or Control and Communication in the Animal and the Machine)」という書籍を刊行して、サイバネティクスの意味を確立しました。

ウィーナーは、第二次世界大戦のとき、自動防空システム(敵の航空機の動きを予測して高射砲の標準を合わせる自動制御システム)の研究に携わりました。そして、そこでは人間の判断と機械の情報処理を統一的に考える必要性が高まりました。そのため、ウィーナーは、コントロール(制御)とコミュニケーション(通信)に注目して研究を行っていました。その後、ウィーナーは、その経験から人間(動物)の神経系と機械の「フィードバック制御システム」における共通の原理を導き出しました。

フィードバック制御システムとは、システムが、出力した情報を入力して、その情報に基づいて出力を調整することだよ!すなわち、このシステムは、出力した結果の値を測定して、測定された値と設定された値を比較するんだ!そこに誤差が生じていれば、システムは、設定値に合わせるため、出力を自動的に調節(制御)するんだよ!
そして、その共通の原理を表す言葉としてサイバネティクスを採用しました。つまり、その共通の原理が「サイバネティクス」の重要な要素となりました。ちなみに、サイバネティクスという言葉は、古代ギリシア語kybernētēs(キベルネテス)が語源で舵取りや操舵手という意味です。すなわち、サイバネティクス理論とは、人間(動物)の神経系と機械のフィードバック制御における共通性を論理的に説明したものです。たとえば、人は、水の入ったコップを運ぶとき、水をこぼすことがあります。

しかし、その失敗を繰り返さず、コップを運ぶことができるようになります。それは、水をこぼしたときのコップを運ぶ動作という情報を伝達された脳が、その情報を学習して動作を調節(制御)するからです。これは人間の神経系の機能です。そして、クーラーに装備されているサーモスタット(自動温度制御装置)は、冷気を出しながら、センサーを使って室内の温度という情報を検知します。そして、その情報を設定された温度と比較して、誤差があれは、室内を設定温度にするため、スイッチを自動的にオン・オフします。
これが機械のフィードバック制御システムです。このフィードバック制御がサイバネティクス理論の中核を成しています。そして、この理論は、学問として発展するとともに、AI(人工知能)、ロボティクス、認知科学、システムバイオロジー、医学、社会学などの多くの分野に応用されてきました。また、1962年に刊行されたサイバネティクスの第2版において、ウィーナーは、生物が持つ学習能力と増殖能力を機械が持つことを予測しました。
学習する機械ではチェスを指す機械を例にして説明しています。すなわち、この機械は、過去の対戦記録を学習して、そこから、勝利した割合が高い対戦方法を選択したりして対戦戦略の修正を行います。ウィーナーは、マングースが、コブラとの過去の対戦方法を学習しながら、勝利する戦略を立てる姿と重ね合わせて、その類似性を説明しています。現在、このような機械による学習はAIによって達成されていますが、ウィーナーは、1960年代の初めに、AIが将来登場することを理論的に説明していました。

自己増殖する機械とは同じ機能を持つ複製を作り出すことです。複製を作り出すとは、「非線形トランスデューサ」という装置を使って、ある機械(ホワイトボックス)が、未知の機械(ブラックボックス)の機能を、共通のランダムな入力を通じて自動的に模倣することです。ウィーナーは、このプロセスを、遺伝子やウイルスの自己複製と哲学的に類似していると説明しています。

線形とは、グラフを描くとき、直線(比例)で表せるものだよ!たとえば、標準的な体型の大人の身長と体重は、身長が高くなると、比例して体重も増えるよね!一方、非線形とは直線のグラフでは表せないものだよ!たとえば、運動の強度と心拍数の関係では、運動の強度が上がると、心拍数も増えるけど、最大心拍数より増えることはないよね!だから、心拍数は運動の強度に比例して増えるわけではないんだ!また、コンクリートは、ひび割れが生じると、剛性(物体が、外から力を加えられても、変形しにくい性質のこと)が低下するけど、その関係は、線形では表せない複雑なものなので、非線形になるんだ!
トランスデューサとは、光、音、温度などの現象を機械にデータとして入力できるようにするため、電気信号に変換したり、逆に電気信号を光などに変換したりすることができる機器のことだよ!たとえば、スマホは、録音したり通話したりするために、トランスデューサを使って音声を電気信号に変換してデータ入力したり、逆に電気信号としてのデータを音声に変換して出力したりするんだ!そして、非線形トランスデューサとは、入力信号の変化に対して出力信号が比例しないデータを変換する機器のことだよ!
サイボーグ技術
先に解説したように、サイバネティクスという言葉からサイバネティク・オーガニズムという言葉が作られましたが、その略語のサイボーグという言葉は、人間と機械が融合した超人的な生命体を表現するものとして、空想の世界で語られてきました。たとえば、1987年のアメリカ映画「ロボコップ」では、瀕死の重傷を負った警官の脳、顔面の皮膚、消化器官の一部を残して、身体を機械化したサイボーグが主役となって人間の能力を超える活躍をします。
また、1989年から連載が始まった「攻殻機動隊」の主役である「草薙素子」は、脳と脊髄の一部以外全身義体(機械)というサイボーグとして超人的な活躍をします。つまり、どちらも、サイボーグになることで超人的な能力を得ています。ちなみに、1984年に公開されたアメリカ映画の「ターミネーター」で、アーノルド・シュワルツェネッガーが演じたターミネーターは、人間の骸骨のような姿をしたロボットが生体組織で覆われているため、人間のように見えますが、サイボーグではなくアンドロイドという定義に入ります。

それから、1977年から始まったアメリカ映画の「スター・ウォーズシリーズ」では、「ダース・ベイダー」というサイボーグに改造された悪役が登場します。そして、2005年に公開された新3部作の「スター・ウォーズ/シスの復讐(エピソード3)」では、戦いに敗れたアナキン・スカイウォーカー(新3部作の主役)がダース・ベイダーというサイボーグに改造される場面が描かれています。しかし、この場合の改造は、能力を強化するためではなく、生命の維持や失われた機能の回復が目的です。
一方、現実のサイボーグ技術は特に医療分野で利用されています。すなわち、事故や病気などによって失われた機能を回復するため、人工で作られた生体の一部などを利用する技術が研究・開発されています。たとえば、脳、神経、筋肉が発する電気信号を利用して、失った機能を回復する技術が研究されています。具体的には、身体を動かすために脳から筋肉へ送られる生体電位信号という電気信号を義手や義足のセンサーが検出します。

次に、その信号を増幅するなどの処理を行います。そして、電流となって義手などに搭載されているモーターを動かします。つまり、身体に装着した義手などを自由に動かすため、人間と機械を接合する技術です。また、人工内蔵として体内に埋め込まれるものがあります。たとえば、心臓の機能を補助するペースメーカーや除細動器、心臓の機能の一部を代替する人工弁があります。そして、人工心臓の移植についても研究が進められています。そのほか、聴覚を補助する人工内耳、水晶体を代替する眼内レンズ、人工血管、人工関節、人工骨があります。

人工腎臓についても埋め込み型の研究・開発が行われています。このようなサイボーグ技術は、やがて、病気やケガで失った機能を回復するためだけではなく、身体の機能を強化するためにも利用される時代が来るかもしれません。しかし、そこには倫理的な問題などが潜在しています。他人より優れた能力を身に付けたい人がいます。不老不死を望む人もいるかもしれません。いつか、SFの世界で描かれたサイボーグが、現実の世界に存在するものとして考えることになるかもしれません。






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