人の脳についてパートⅠとパートⅡに分けて解説します。パートⅠでは「脳とは」、「ニューロンの働き」、「グリア細胞の働き」について解説します。パートⅡでは「大脳の構造と役割」、「小脳の構造と役割」、「間脳の構造と役割」、「脳幹の構造と役割」について解説します。
脳とは
人の脳は、物事を覚えたり、何かを考えたり、話したり、喜怒哀楽の感情を表したり、身体を動かしたりするなどの機能を働かすために必要な臓器です。脳の表面はシワがあって、デコボコしています。これを伸ばして広げると、約1,600~2,000平方センチメートルあるそうです。たとえば、50cm×32cm~50cm×40cmの長方形の大きさがあるというイメージになります。つまり、脳は、人の頭の中に丸く縮めて収められているということです。このシワのある脳の表面を大脳皮質と呼びます。脳の主な部分は大脳です。大脳には神経細胞がたくさん詰め込まれています。神経細胞はニューロンと呼ばれています。

特に、人の脳はこの大脳が発達しているため、人は高度の知的生物となりました。俗に脳のシワが多いと頭が良いと言われていますが、しわの多さと頭の良さは関係がありません。そして、脳の重さは成人で約1,300~1,500グラムあります。また、頭を使うと、甘いものが欲しくなると言われています。これは、脳がエネルギー源として血液中のブドウ糖を使うためです。すなわち、ブドウ糖が消費されて血糖値が下がるため、この現象が起こります。ただし、脳はブドウ糖を一定の速度で消費するため、頭(脳)を使っても、ブドウ糖の消費量が急に増えるわけではありません。
AI(人工知能)は、稼働中、大量の電力を消費すると言われています。人の脳も、多くのエネルギーを消費します。体全体が消費するエネルギーの20パーセントくらいは脳が消費しています。脳は、知覚神経が体の内部や外部から集めた情報(皮膚や筋肉が感じた痛みや目や耳が得た知識など)を記憶します。しかし、その記憶の情報は粒子レベルで脳に伝わります。たとえば、猫を見たとき、その姿は、大量の光の粒子(光子)として目(網膜)に入ります。そこで、光子は、電気信号に変換されて、視神経を通って脳の視覚野に送られます。そして、その大量の情報は、電気信号として脳内の神経回路(神経ネットワーク)を駆け巡ります。
そのとき、過去に記憶されている猫に関連する情報と瞬時に照合されます。同時に、脳内の神経ネットワークのうち猫関連のパターンが活性化します。その結果、脳は猫と知覚します。また、新たな情報が入れば、脳内の神経ネットワークにその情報のパターンが追加されて記憶されます。すなわち、脳の機能は記憶をつくり上げることです。それは記憶が脳をつくり上げているとも言えます。このように、記憶をつくり上げるとき、脳内の神経ネットワークは変化していきます。この変化は一生継続します。この変化が脳に残る性質を「脳の可塑性(かそせい)」と呼びます。

子供は、大人に比べて多くの新しい知識などを短時間で習得していきます。これは子供の脳の可塑性が高いからです。また、脳の可塑性は失われた機能を回復させることもできます。たとえば、脳卒中による後遺症のため、片側の足が麻痺して動かなくなったときでも、歩行のリハビリを行えば、再び歩行ができるようになります。これは、障害を受けた脳の機能が、リハビリによって回復することができるからです。すなわち、脳内の神経ネットワークにおいて、片側の足を動かすための変化が起きて、その変化が定着したからです。
ニューロンの働き
脳は、ニューロン(神経細胞)とグリア細胞(神経膠(こう)細胞)という2種類の細胞から構成されています。脳にはニューロンが約860億個あると推定されています。そのうち、大脳には約160億個で、小脳には約690億個あると言われています。20歳くらいで大人の脳が完成すると、その後、1日に10万個くらいのニューロンが死滅していきます。新しいニューロンが作られることもありますが、年齢を重ねるごとに数は減っていきます。ニューロンは細胞体から木の枝のように複数の突起を伸ばしています。

それらの突起のうち、一本の長い突起は、「軸索」と呼ばれて先端付近で枝分かれしています。軸索には、他のニューロンに情報(出力信号)を送る働きがあります。残りの短い複数の突起は「樹状突起」と呼ばれています。これらも先で枝分かれしています。こちらは、情報(入力信号)を受け取る役割を果たしています。このように、ニューロンは、情報を伝えたり受けたりすることによって、複雑な神経ネットワークを築いています。また、ニューロンは種類ごとに集まっています。そして、大脳皮質には6層、小脳皮質には3層の構造を形成しています。
ニューロンは、お互いの接合部分で、電気信号(情報)を化学物質に変えて情報の受け渡しを行っています。この接合部分はシナプスと呼ばれています。1個のニューロンには平均して数万のシナプスがあると言われています。シナプスには、接触部分はなくわずかな隙間(シナプス間隙)があります。化学物質(神経伝達物質)は、軸索の枝分かれした最先端の部分(シナプス前部)から放出されます。この放出された神経伝達物質は、シナプス間隙を通って、他のニューロンの樹状突起の枝分かれした最先端の部分(シナプス後部)にある受容体と結合します。


神経伝達物質には多くの種類があるんだ!代表的なものには、アセチルコリン、グルタミン酸、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどがあるよ!そして、興奮、抑制、感情、運動などの様々な情報を伝達する役割を果たしているんだ!
このようにして、ニューロンはお互いに情報伝達を行います。この一連の仕組みの中で、脳は記憶を積み重ねていきます。そして、記憶は、ニューロンという脳細胞に保存されるわけではなく、ニューロンがシナプスを通して組み立てる神経ネットワークの中で、つくり上げられて残されていきます。たとえば、猫という情報が1つのニューロンの細胞体に記憶されているわけではなく、膨大な数のニューロンによって構築されている神経ネットワークにおいて、猫のパターンがつくり上げられて、記憶として残されます。
すなわち、情報(電気信号)が知覚神経から入力されると、特定のシナプスには、接合の強弱(機能的な変化)や増減(構造的な変化)が生じます。つまり、シナプスの接合に変化が起こります。そして、その変化が脳内に定着します。これを「シナプスの可塑性」と呼びます。たとえば、人は、赤ちゃんのときに立ち上がって、よちよち歩きを始めます。それから、成長とともに歩行は繰り返されて上手くなっていきます。このとき、神経ネットワークでは、歩行のパターンがつくられてから、上手くなるごとにそのパターンは変化して定着していきます。

つまり、変化が記憶として残されていきます。これは、シナプスの接合が強くなったり、増えたりして起こる変化のことです。そして、神経ネットワークに定着している変化した歩行パターンとしての記憶が、歩くための何らかの動機付けなどによって刺激を受けると、活性化されます。その結果、神経を通じて脳から筋肉へ歩行指令(電気信号)が送られます。このようにして、人は歩行という運動を行います。すなわち、神経ネットワークは、人が生きるための営みをコントロールする司令塔として働いています。
グリア細胞の働き
ニューロンの活動を支えるのがグリア細胞です。脳に分布するグリア細胞は、主にアストロサイト(星状膠細胞)、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)、ミクログリア(小膠細胞)という3つの種類に分類されます。アストロサイトには、ニューロンに必要な栄養素を合成・分泌したり、グリコーゲンをエネルギーとして供給したり、イオン濃度や水分バランスを調整して脳内環境を整えたりする働きがあります。また、過剰な神経伝達物質を回収したり、シナプスの形成や維持を支えたり、シナプス接合の強弱などを調節したりする働きもあります。

さらに、アストロサイトには、血管から脳細胞に有害物質が侵入するのを防ぐ働きをする血管脳関門の形成や維持を支えたり、脳内の血流を調節したりするなどの様々な働きがあります。オリゴデンドロサイトは、ニューロンの軸索を包むミエリン鞘(髄鞘)を形成します。ミエリン鞘とは、軸索を何重にも包んでいる膜ですが、一定間隔でわずかな隙間(ランビエ絞輪)を作りながら、軸索を包んでいます。そして、ミエリン鞘は絶縁体としての機能があります。そのため、神経伝達(シナプスでの情報の受け渡し)ために軸索を通る電気信号(情報)は絶縁体を跳躍して伝わります。
これを跳躍伝導と呼び、電気信号を高速で伝えることができます。また、ミエリン鞘には軸索を保護する働きもあります。ミクログリアは免疫として働きます。すなわち、ミクログリアは、突起をたくさん伸ばして、ニューロンの状態を監視しています。そして、感染や傷などの異常を見つけると、異物や死んだ細胞を食して除去したり、細胞組織の修復を助けたりします。さらに、シナプスの刈り込みと呼ばれる働きを行うことによって、神経ネットワークを整理します。





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